【作品データ】
- タイトル:なぜ古本は独特の匂いがするのか
- 作家:紙魚丸
- ジャンル:巨乳 ,人妻・主婦 ,不倫 ,夜のお仕事・風俗嬢
【感想レビュー】
『なぜ古本は独特の匂いがするのか』は、フェティッシュを“古本の匂い”に一点集中させたコンセプト勝ちの短編。紙魚丸らしい乾いたユーモアと生活感のある背景がまず強い。
木造の古本屋、天井の梁、圧縮された背表紙の群れ——ディテールが匂いのメタファーを補強していて、コマをめくるだけで鼻腔がザラつく。トーンは粒状感を活かした網点が多く、黄ばんだ紙の質感をモノクロで立ち上げるのが巧い。導入はモノローグ多めでテンポ良く、匂い→記憶→行為へと段階的にスイッチが入る構図。縦長コマと細切れの分割でリズムを刻み、ページ単位でクレッシェンドを作る職人仕事だ。
キャラ造形は無気力メガネの店員と無表情の来客という“無臭寄り”のデザインで、表情の変化を最小限に抑えたぶん、指先や喉の動き、呼吸線といったミクロな記号が映える。擬音はカタカナの角張りで乾いた手感を表現しつつ、置き場所は視線誘導のレールとして機能。
難点は、中盤で吹き出しが多層に重なる場面があり、背景の情報が埋もれること。セリフのウェイトを1~2割落とし、余白を増やすだけで“匂いの余韻”がもっと残るはず。総じて、嗅覚フェチというニッチを空間描写で説得する、紙魚丸の強みが詰まった一作。コンセプトの純度と画面設計が光る。
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